プラトー舞曲集 鈴と沈黙 Posted on 08/04/2022 by 歌遣い ある夜 少しだけ開けられた窓から 鈴の音が聞こえてくる 鈴の音がしだいに近づいてくる どこからかやって来た巡礼団かとも思ったが こんな夜半に歩くとも思えない いったいどこから聞こえてくるのだろうと 窓を開け 辺りを見渡す...
プラトー舞曲集 夜は名前をもたない Posted on 08/04/2022 by 歌遣い 夜は名前をもたない 夜という物質があるわけではなく ただそこに在る物質たちが夜として響きあう 意味も秘密もない響きのなかで 物質たちは夜を慈しみ 夜をガウンのように纏う 名前の与えられたあらゆる物質の隙間に 夜は漂い 世...
プラトー舞曲集 無の書物 Posted on 08/04/2022 by 歌遣い 目が覚めると 雑然とした机の上に無の書物が置かれている それはまるで宇宙創生のときからそこに在るようで 圧倒的な存在感が光を放っている いまにも崩れてしまいそうな頁に 見たこともない 不揃いの文字が連綿と並んでいる 海の...
プラトー舞曲集 四ノ森 Posted on 08/04/2022 by 歌遣い この伝説の森にはあらかじめすべての文字が象られ 枝先や葉裏にしまわれていた 歴史も思い出もまた記憶ばかり 文字を辿れば 過去から未来まで すべての歴史を読み解くことができる あらゆる記憶が 人の欲のままに造られる この森...
プラトー舞曲集 あだし野 Posted on 08/04/2022 by 歌遣い あらゆるものは記憶のなかに存在する そこに在るのではない 記憶こそが存在の揺籠である はるか遠くで風が鳴る たとえ亡霊となっても 髑髏となっても そこに記憶があるならばそれは存在なのだ 野の草の陰で ひとつの髑髏がかたか...
プラトー舞曲集 夜の旋律 Posted on 08/04/2022 by 歌遣い どこからか旋律が流れてくる それは風の隙間に紛れるほどのかすかな旋律で どこか哀愁を帯びていた むかしであったか聞き覚えのあるような調べが 大気のなかをたゆたっている 森のなかで聞いたのであったか 星空のしたで聞いたので...
プラトー舞曲集 追憶のオルゲル Posted on 08/04/2022 by 歌遣い 廃屋のなかの瓦礫に眠るオルゴールが 冷たい月光に照らされる いったいどれだけ月光を浴びたのか だれも数えるものはいない 月が雲で翳ったとき ふいになにものかの記憶が宿る いったいなにものの記憶なのか ほんのり斑の入った白...
プラトー舞曲集 物質的郷愁へ Posted on 08/04/2022 by 歌遣い それはとうにいのちを終えたというのに まだ両の目をぎらつかせていた 結晶化し物質界にとけこんだはずの目には どこまでも冥い世がうつっていた それはただ無機物がぶつかり犇きあう退屈な世で 花の一輪さえなかった もはや地上に...
プラトー舞曲集 ウタ Posted on 08/04/2022 by 歌遣い ある寒い冬の夜 どこからかウタがやってきて あまりの寒さに思わず土にもぐりこんだ 土のなかも十分あたたかいとはいえなかったが 春のウタでからだを震わせ 寒さを紛らわせた 土のなかはさまざまな虫の幼虫や 種や 蚯蚓や 菌で...
プラトー舞曲集 うつしよ Posted on 08/04/2022 by 歌遣い ある春の月夜 森にひとりの年老いた猟師のウスラがやってきた ウスラはこのあたりで最後の猟師であったが もうほとんど視力を失っていて 匂いで森を感じるばかりだった もちろん もう獲物を獲ることなどできない 匂いで木の実を嗅...